そもそも「VPS」とは何か
FX取引やEAによる自動売買について調べていれば、「VPS」という単語がかなりの頻度で目に飛び込んでくることになる訳だが、そもそもVPSとは一体何なのか。
そして、「VPSを利用するかどうか」あるいは「どこのVPSを利用するか」については、自動売買による取引を考えているならば避けては通れない話題と言えるだろう。
ここでは、VPSに関する基礎的な知識を中心に、何種類かに区分されるレンタルサーバーの概要や、VPSを選ぶ際のポイントなどについても解説していきたいと思う。
何故、EAによる自動売買にVPSが必須なのか
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そもそもEAは、MetaTrader 4(MT4)が稼働している間しか取引を実行できないため、EAを軸にした自動売買においては、原則としてMT4を一日中休むことなく稼働させ続けなくてはならない。
別に中断なしの連続稼働が法的に義務付けられているという訳でも何でもないが、断続的に取引が中断されてしまう環境では、保有中のポジションがおかしなタイミングで決済されてしまったり、EAのアルゴリズムが正常に動作しなかったりと、まさに「百害あって一利なし」だ。
とは言うものの、自宅のデスクトップPCを長期間に渡り連続して稼働させ続けることは、コンシューマー向けOSの安定性や信頼性、運用に掛かるコストや保守性などの面から見ても、あまり現実的とは言えないだろう。
地震や落雷などで停電すれば、PCは容易にシャットダウンしてしまうだろうし、長期間の長時間運用による故障リスクの増加は免れ得ない。また、一ヶ月間ほとんど無休でPCを稼働させていれば、多くの場合、VPSの月額利用料の方が安上りとなるか、やや高い程度となるはずだ。
VPSを利用すれば、トラブルによる被害リスクと運用コストを最小限に抑えつつ、安定した長期間のEA運用が可能となる訳なのだから、本格的に自動売買によるFX取引を考えているならば、活用しない手はないだろう。
共用でも専用でもない「仮想専用サーバー」
まず、VPSとは「Virtual Private Server(バーチャル・プライベート・サーバー)」の略称であり、一般的には「仮想専用サーバー」と邦訳されることが多い。
いわゆる「ホスティングサービス」の一種なのだが、「共用サーバー」と「専用サーバー」の中間的な立ち位置にあることから、両者のメリットとデメリットをそれぞれ併せ持っている点が、大きな特徴であると同時に「VPSならではの強み」だとも言える。
共用サーバー
「一台のホストコンピューター(物理サーバー)を幾つかの部屋に区分けして、複数人でそれらを共用する」仕組みを持つサーバーは広く「共用サーバー」と呼ばれ、一般的に「レンタルサーバー」の名称で貸し出されているサーバーの多くは、共用サーバーとなる。
各部屋には、それぞれCPUやメモリ、ストレージなどのリソースが割り振られているため、ホストコンピューター本来のスペックにかかわらず、基本的に部屋の住人は、割り振られた分のリソースしか利用することができない。
また、この部屋は物理的に完全に独立した設計ではなく、“仮想的な壁” で仕切られて作られた空間のようなものでしかない点が、後述の専用サーバーやVPSとは大きく異なる。
そのため、同じサーバーを共用する人が、一時的あるいは恒常的にリソースを大量に消費してしまった場合、他の部屋に割り振られたリソースまでも消費してしまい、リソースを奪われた側の処理能力が低下してしまう恐れがある点は、共用サーバーの分かりやすい弱点の一つだろう。
「十畳一間の部屋を複数人でルームシェアする」のが共用サーバーだと言えば、イメージを掴みやすいだろうか。
誰かが我が物顔で広々と空間や設備を使ってしまえば、同居している他の人がその分だけ肩身の狭い思いをすることになる訳だ。
なお、共用サーバーの場合、利用者には「管理者権限」が与えられないため、自分勝手に好きなOSやプログラムをインストールするようなことは不可能であり、あらかじめサーバー上にインストールされたプログラムのみしか利用できない。
自由度という点においてかなりの制限を食らうことになる訳だが、反面には、「自分であれこれ設定する必要が手間を省ける」という利点や、「サーバーの保守管理やメンテナンスなど、面倒臭い作業の一切をホスティング業者に一任してしまえる」という利点も存在している。
一方で、共用サーバーには、「コストが低い」という絶対的な強みもある。
専用サーバーは言うまでもなく、VPSと比べても割り振られるリソースのスペックは低くなってしまうものの、その分だけ限りなくコストを低く抑えることができるのは魅力的だ。
小規模な個人または企業サイトを運営する程度ならば、共用サーバーで十分だろう。
共用サーバーを選ぶメリット
- コストを低く抑えられる
- 自分で設定する手間を省き、すぐにサーバーを利用できる
- サーバー管理やメンテナンス作業を業者に一任できる(=専門知識が不要)
共用サーバーを選ぶデメリット
- 専用サーバーやVPSと比較して、スペックが低い
- サーバーを共用する他ユーザーからの影響を受けやすい
- 管理者権限がないため制限が多く、拡張性に欠ける
専用サーバー
共用サーバーに対し、「一台のホストコンピューター(物理サーバー)のリソースすべてを、一人の利用者が丸ごと占有できる仕組み」を持つサーバーのことを「専用サーバー」と呼ぶ。
リソースは他の誰とも共有されることはないため、ホストコンピューター本来の性能を余すことなく利用できる上に、当然のように管理者権限も与えられているため、スペックの高さは言うまでもなく、拡張性や柔軟性の面においても、共用サーバーやVPSよりも頭一つ抜きん出る。
OSを別のOSに変更したり、好きなソフトウェアやプログラムを自由にインストールしたりと、共用サーバーでは不可能だったOSレベルでのカスタマイズまで、まさに何でもござれだ。
また、最も高額な部類に入るVPSの中には、“標準的” または “やや高性能” な専用サーバー並みのスペックを持つものもあるが、最上級の専用サーバーは、大規模なオンラインサービスの運用や様々なデータ解析、人工知能の開発などもこなせるほどに、スペックが高い。
その分だけ飛躍的にコストも嵩むことになる上に、各種設定から保守管理、果てはメンテナンスに至るまで、基本的にすべて利用者自身で行う必要があるため、サーバー運用に関する高い専門知識が要求されることとなる。
例えるならば、「借りた一軒家で内装の配置から何からまで、すべてを自由にカスタマイズして使用できる」のが専用サーバーといったところだろうか。
片田舎の住宅地に建てられた慎ましやかな一戸建てから、都会の一等地に建てられた広々とした豪邸まで、選べる選択肢の幅が広いことも専用サーバーの特徴だと言える。
なお、法人の場合は別として、個人レベルでの話で言えば、計画している用途や想定される運用規模によってはVPSや共用サーバーで十分な場合も多いため、本当に専用サーバーが必要かどうかは慎重に判断されるべきだろう。
専用サーバーを選ぶメリット
- 圧倒的に選べるスペックの上限が高い
- サーバー一台のリソースを完全に占有できる(=他者からの影響を受けない)
- 拡張性や柔軟性が非常に高い
専用サーバーを選ぶデメリット
- コストが高い
- サーバー運用に関する高い専門的な知識が必須(※有料の代行サービスあり)
VPS(仮想専用サーバー)
共用サーバーを「十畳一間でのルームシェア」、専用サーバーを「一軒家での一人暮らし」と例えた流れで言えば、VPSについては、「マンションまたはアパートでの一人暮らし」に例えることができるだろう。
前述した通り、VPSは共用サーバーと専用サーバーのメリットとデメリットを併せ持った存在であるため、どちらのサーバーにも満足できない人にとっての “丁度良い受け皿” となっている。
まず前提として、「一台のホストコンピューター(物理サーバー)のリソースを複数人で共用する」という点において、VPSは共有サーバーと変わらない。
ただし、VPSの場合は、ホストコンピューターにインストールされているOS(ホストOS)の上に、仮想サーバーを設定する形で部屋が区切られているため、基本的に利用者は、各部屋に割り当てられたリソースを占有できる点が、共用サーバーと大きく異なる。
つまり、共用サーバーよりも各部屋を仕切る壁が分厚く頑丈なものになったことで、他の部屋の住人からの影響をかなり受けにくくなっているということだ。
とは言うものの、あくまで「受けにくい」だけであり、完全にその影響を遮断することはできない。例えば、通信回線などは完全に共用しているため、誰かが大量のデータ通信を行っている最中などに回線速度が低下したり、性能が低下したりすることはありえるだろう。
また、それぞれの仮想サーバーには、ホストOSとは異なるOS(ゲストOS)がインストールされているため、専用サーバーと同様に利用者には管理者権限が与えられる点も、VPSの大きな特徴の一つに挙げられる。
そのため、ゲストOSを別のOSに変更したり、必要なプログラムを自由にインストールしたりすることも可能だ。
ただし、管理者権限で好き勝手にできるとは言っても、あくまでも「一軒家の中の一室」に限った話であり、一軒家を丸ごと好き放題できる専用サーバーの拡張性と柔軟性には及ばない。
また、共用サーバーにはない自由を得た引き換えに、ある程度のサーバー運用に関する専門知識が要求されることになる訳だが、専用サーバーと同様に各種設定や保守管理などの有料代行サービスも提供されているため、必要に応じて積極的に利用すると良いだろう。
なお、種々のレンタルサーバーの中でも、特にコストパフォーマンスに優れている点についても、VPSを利用する上での大きな利点となっている。
「専用サーバーに近いスペックと拡張性を、共用サーバーに近い価格帯で利用できる」と言えば、その魅力の一端が伝わるだろうか。
VPSを選ぶメリット
- 専用サーバーに近いスペックを選べる
- 専用サーバーに近い拡張性と柔軟性がある
- 割り当てられたリソースを占有できる(=他者からの影響を受けにくい)
- 共用サーバーに近い価格帯から利用できる
VPSを選ぶデメリット
- ある程度のサーバー運用に関する知識が必要(※有料の代行サービスあり)
- コスト面では共用サーバー、スペックや拡張性などでは専用サーバーに及ばない
クラウドサーバー
VPSと良く似た仕組みを持ち、近年その人気を高めつつあるサービスに「クラウドサーバー」がある。
現実にそのようなものは存在しないだろうが、これまでの例になぞらえて言えば、「部屋の大きさや設備を自由に変更できるマンションでの一人暮らし」といったところだろうか。
クラウドサーバーは、「一台のホストコンピューター(物理サーバー)上に仮想サーバーを設定する形で部屋を区切り、各部屋に割り当てられたリソースはそれぞれ利用者が占有できる」という構造においては、VPSと同様だ。
一方で、多くのVPSとは異なり、CPUやメインメモリ、ストレージ、回線速度などのスペックを必要な時に必要な分だけ追加(強化)できるため、拡張性と柔軟性という観点から評価すれば、VPSよりも優れていると言えるだろう。
必要に応じて柔軟にスペックを変更することはもちろん、必要がなくなれば元のスペックに戻すことも可能なため、例えば運営するWebサイトに突発的なトラフィック増加が発生した際などにも、一時的にスペックを強化することで不用意なシステム停止などの被害を未然に防ぐことも可能となる。
なお、共用および専用サーバーやVPS、あるいは自社サーバーの場合、一度スペックを強化してしまうと、「必要がなくなった」という理由でまた元のスペックに戻すのは手間が掛かる上、投入したコストの大半が無駄になってしまう恐れが大きい。
一方でクラウドサーバーならば、一時間や一日単位での仕様変更も可能なため、掛かる手間とコストを必要最小限に抑え、より柔軟なサーバー運用を実現できる点も、クラウドサーバーならではの強みと言えるだろう。
そのほか、「ロードバランサ」と呼ばれる「一つのサーバーに集まった負荷を別のサーバーへと分散させる機能」など、複数のサーバーに跨ってインフラを構築する仕組みを備えている点も、大きな特徴の一つとなっている。
ただし、状況に応じて適切に運用すれば諸々のコストを最小限に抑えられる一方で、月額利用料などの基本的なコストについては、基本的にVPSよりも割高に設定されている場合が多い。
また、多岐にわたるオプションサービスが用意されているため、初心者には取っ付きにくい点や、ある程度以上のサーバー運用に関する知識がないと適切な運用が難しい点なども、クラウドサーバーの弱点と言えるだろう。
クラウドサーバーを選ぶメリット
- VPSのメリットはそのままに、より高い拡張性と柔軟性を実現する
- 必要に応じてスペックを強化できるため、運用コストを最小限に抑えられる
- サーバーへの負荷分散やセキュリティ強化など、多彩なオプションが存在する
クラウドサーバーを選ぶデメリット
- ある程度以上のサーバー運用に関する知識が必要(※有料の代行サービスあり)
- 基本的な単価は、VPSよりも割高に設定されている
- 適切に運用しないと、かえってコストが高く付く場合がある
FX自動売買には、どのVPSを選べば良いのか
さて、ここまでの解説で、各サーバーには、それぞれ異なるメリットとデメリットがあることを理解していただけたと思うが、ここからは、VPSを選ぶ際のポイントについても触れていきたいと思う。
なお、すべて「EA運用による自動売買を行う」という観点に立って評価しているため、VPSを利用する万人に当てはまる訳ではないので悪しからず。
OSは、必ず「Windows Server」シリーズに
MT4は、Windows OS上でのみ動作するため、VPSを選ぶ際には、必ずサーバー向けWindows OSである「Windows Server」シリーズをインストールできるものを選ぶようにしてほしい。
VPSの中には、「CentOS」や「Ubuntu」などのLinux系列のOSを搭載しているものも多いので、自分でOSの換装が可能なほどにサーバー運用に精通している訳ではないのならば、素直に最初からWindows Serverが搭載されているものを選んだ方が無難だろう。
また、実際にMT4を稼働させるには、「仮想デスクトップ」機能の利用が必須となる。
ホスティング業者の中には、VPSと一緒に仮想デスクトップサービスを提供しているところもあるため、手間を極力省きたい人にはおすすめしたい。
基本的にメモリは「1GB」もあれば事足りる
多くのホスティング業者から様々なプランが提供されているVPSだが、MT4の稼働とEAの運用という用途に絞って言えば、メインメモリの容量は、「1GB」もあればひとまず十分だろう。
OSやCPU、通信回線などの諸要素にも左右されるため一概に断言することはできないが、後述のFXに特化したVPSであれば、1GBのメモリ容量があれば、五枚以上のMT4、十個以上のEAを同時に稼働させることも可能な場合もあるが、安定した運用を実現するためには、常にVPSのリソースには余力を持たせる意識を忘れずに。
というのも、MT4の仕様として、基本的に注文が約定される瞬間にCPU使用率やメモリ消費量が跳ね上がるため、あまり同時に多くのMT4やEAを稼働させていると、注文が正常に約定されなかったり、EAが誤作動を起こしてポジション管理に不具合が発生したりする恐れがあるからだ。
なお、MT4上で動作するプログラムであるEAの方が、基本的にMT4よりも “軽い” ため、同時に運用するEAの数よりも、同時に稼働させるMT4の枚数の方が、より全体的な動作の快適さに大きな影響を与えることになる。
FX取引に特化したVPSを選ぶと、色々と楽ができる
数あるホスティング業者の中には、「FX取引に特化したVPS」を提供しているところもある。「お名前.com」や「ABLENET」、「使えるねっと」辺りが有名どころと言えるだろう。
この手のVPSには、仮想デスクトップ機能を含め、FX取引に必要なプログラムなどが初めからすべてインストールされているため、自分で何かを設定する手間を極力省くことができる。
また、FX取引に特化しているため、MT4とEAを安定して稼働させるために必要最低限以上のスペックが、業者によって担保されている点も安心だ。
国外サーバーを選択することで、約定力の改善も狙える
VPSの中には、国内のデータセンター内に設置されたサーバーのほか、国外データセンター内のサーバーを接続先として提供しているものも存在する。
国内のサーバーから発注された注文が、国外にある海外FX会社のサーバーを経由して約定されるまでに、コンマ何秒の世界の話ではあるが、少なからず遅延が発生してしまう。
この物理的な距離に起因する遅延のせいで、意図したタイミングとずれて約定されてしまうこともないとは言い切れない。
そこで、国外サーバーと接続できるVPSを利用して、契約しているFX会社のサーバーと物理的な距離を縮めることで、その遅延を解消することも可能だ。
ただし、海外サーバーを利用することで、仮想デスクトップの動作が重くなったり不安定になったりする現象も報告されているため、実際に国内外どちらのサーバーを利用するかは、事前に情報をきちんと集めてから決定した方が良いだろう。
まとめ
導入に掛かる手間や運用コスト、拡張性と柔軟性など、様々な観点から総合的に評価すると、やはり「EA運用による自動売買には、VPSが最適」という結論に至る訳なのだが、その理由については、上記の解説で納得していただけたものと思う。
残る問題は「どのVPSを利用するか」ということになるが、特に強いこだわりがあるのでなければ、素直に「FX取引に特化した仕様のVPS」を選択することをおすすめしたい。
特に初めてVPSを利用してFX取引を行うという場合には、まずはメインメモリ容量「1GB」程度のプランから始めて、必要に応じてプランを変更していく中で、自分の取引スタイルに最適なプランを見つける方法が、やはり王道にして正攻法と言えるだろう。
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